退職金を守るほど心が削れていく…夜中の足のつりで気づいた静かな老後赤字の正体

くつろぐおやじ
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年金が減りにくくなった春、「働ける安心」が老後の健康貯金を減らすかもしれません

くつろぐおやじ

2026年5月30日。暦の上では初夏に入り、梅雨入り前の湿った風を感じる頃です。朝、紫陽花のつぼみを眺めながら、私はふと「お金の心配は、季節より先に心へやってくるものだな」と思いました。

今回のテーマは、「年金が減りにくくなったことで、つい働きすぎてしまう老後の落とし穴」です。

在職老齢年金は、60歳以降に厚生年金に加入して働きながら老齢厚生年金を受け取る場合、賃金と年金の合計額によって年金の一部または全部が支給停止になる仕組みです。2026年4月から支給停止基準額が月額65万円へ引き上げられ、働きながら年金を受け取る人にとっては、以前より年金が減額されにくくなったとされています。

これは一見、60代にとってうれしい改正です。まだ元気で働ける人にとっては、「働いたら年金が減る」という心理的なブレーキが弱まるからです。

ただ、私はここにひとつ、あまり語られない怖さがあると思っています。それは、「お金のために働いているつもりが、知らないうちに健康を前借りしているかもしれない」ということです。

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「年金が減らないなら、もう少し働くか」の裏にある小さな疲れ

60代になると、若い頃と同じように働いているつもりでも、体の回復力は静かに変わっています。

朝の目覚めが少し重い。階段を上がると息が切れる。仕事のあとに買い物へ行く気力が残らない。夜、テレビを見ながらうたた寝をして、風呂に入るのが面倒になる。

こうした変化は病気と呼ぶほどではありませんが、確実に日常の足元を柔らかくしていきます。

それでも、お金の不安は強いものです。毎日が発見ネットでは、「老後、生きていけるのか」「どのくらい貯金があれば安心できるのかわからない」といった切実な声が紹介されています。

年金だけでは心細い。貯金を崩すのは怖い。医療費も介護費も読めない。そう考えると、「働けるうちは働く」という結論に落ち着くのは自然です。

けれど、ここで見落としやすいのが「働くことで減るもの」です。

給料は増えます。年金も以前より減りにくくなるかもしれません。ところが、睡眠時間、運動する時間、病院へ早めに行く余裕、夫婦でゆっくり話す時間、古い友人に会う気力は、少しずつ減っていきます。

お金の残高は通帳で見えます。年金額も通知で見えます。けれど、健康の残高はなかなか見えません。

だからこそ、60代の働き方は「いくら稼げるか」だけでなく、「どれくらい疲れを残さないか」で考える必要があるのだと思います。

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退職金を守るより、先に守るべきものがある

60代のお金の話になると、退職金の使い方がよく話題になります。

住宅ローンの返済に充てるか、投資に回すか、定期預金に置いておくか、子どもに援助するか。どれも大切な判断です。

特に最近は、NISAや高配当株、投資信託といった言葉も身近になりました。「退職金を寝かせておくのはもったいない」と感じる人も増えています。

しかし、退職金を守ることに気を取られすぎると、もうひとつの資産を見落とします。

それが「自分の生活リズム」です。

朝、決まった時間に起きる。簡単でも朝食を食べる。薬を忘れずに飲む。軽く歩く。血圧を測る。昼寝をしすぎない。夜更かしをしない。

こうした地味な習慣は、派手な投資話に比べると軽く見られがちです。ですが、老後の生活ではこの地味な習慣こそ、いちばん利回りのよい資産かもしれません。

All Aboutでは、65歳以降の年金暮らしでも住民税が関係する場合があることが取り上げられています。 また、貯金を積み上げても老後の豊かさはお金の多さだけで決まるものではない、という視点も紹介されています。

私はこの考え方に、とても納得します。

いくら資産があっても、毎日が病院通いと疲労感だけになれば、豊かさを味わう余裕はなくなります。

ここで勘違いしてはいけないのは、「働くな」という話ではないということです。

働くことは、収入だけでなく、社会とのつながり、役割、張り合いをくれます。朝、着替えて外に出る理由があることは、60代にとって大きな支えになります。

問題は、働くことそのものではなく、「断れない働き方」になってしまうことです。

人手不足の職場では、経験のある60代は頼りにされます。若い人に教えてほしい。急な欠勤の穴を埋めてほしい。クレーム対応をお願いしたい。

そう頼まれると、つい「自分がやらなければ」と思ってしまいます。長年まじめに働いてきた男性ほど、この罠に入りやすい気がします。

ですが、老後の仕事は、現役時代の延長戦ではなく、別競技です。

若い頃は多少無理をしても、週末に寝れば戻りました。60代では、無理のツケが翌週、翌月、場合によっては数年後に出ます。

だから、給料の明細を見る前に、自分の体の明細を見る必要があります。

眠れているか。食欲はあるか。イライラが増えていないか。休日に何もする気が起きなくなっていないか。

こうした小さなサインこそ、老後資金の警告ランプなのです。

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最後に残ったのは、増えたお金ではなく「休む勇気」でした

ある65歳の男性がいました。仮に佐伯さんとしておきます。

佐伯さんは定年後も同じ会社で働き続けていました。年金の制度が変わり、以前より年金が減りにくくなったと聞いて、佐伯さんは安心しました。

「これなら、もう少し働いて退職金には手をつけずに済む」

そう考えたのです。

妻は少し心配していました。

「最近、夜中に足がつるでしょう。休みを増やしたら」

しかし佐伯さんは笑って答えました。

「今休んだら、あとで困る。梅雨が明けたら少し楽になるさ」

5月の終わり、近所のスーパーには青梅が並び始めていました。妻は毎年、梅シロップを作ります。

佐伯さんはその瓶を台所で見ながら、「今年もそんな季節か」と言いました。けれど、その年は梅の香りをゆっくり楽しむ余裕がありませんでした。

朝は早く出勤し、夜は疲れて帰る。休日は寝て終わる。通帳の残高は増えているのに、家の中の会話は減っていきました。

ある日、佐伯さんは職場で軽いめまいを起こしました。大きな病気ではありませんでした。ただの疲労と睡眠不足でした。

医師からは「少し働き方を調整しましょう」と言われました。

病院の帰り道、佐伯さんはコンビニで昼食を買おうとして、ふと財布の中のレシートを見ました。

栄養ドリンク、胃薬、湿布、眠気覚ましのコーヒー。

そこには、稼ぐために使っていた小さな出費が並んでいました。

その夜、佐伯さんは退職金の通帳を開きました。数字は減っていません。むしろ少し増えていました。

普通なら喜ぶところです。

ところが、佐伯さんは急に怖くなりました。

「私は退職金を守っていたのではなく、退職金に見張られていたのかもしれない」

そう思ったのです。

翌週、佐伯さんは職場に勤務日数を減らしたいと伝えました。

収入は少し減りました。年金と合わせても、以前ほどの余裕はありません。

それでも、朝の散歩が戻りました。妻の作った梅シロップを炭酸で割って、夕方にゆっくり飲む時間も戻りました。

近所の図書館で新聞を読み、たまに古い友人へ電話をするようにもなりました。

そして、ここで少し意外なことが起きました。

勤務日数を減らして数カ月後、家計簿を見直すと、思ったほどお金が減っていなかったのです。

外食、栄養ドリンク、タクシー、疲れからくる衝動買い、休日に何も作れず買っていた惣菜。

それらが自然に減っていました。さらに、体調が安定したことで、病院へ駆け込む回数も減りました。

佐伯さんは気づきました。

老後資金を増やす方法は、もっと働くことだけではなかったのです。

疲れない暮らしに戻すことも、立派な資産形成だったのです。

年金が減りにくくなった時代に、本当に得をする人は「たくさん働ける人」だけではありません。

むしろ、自分の体と相談して、働く量を自分で決められる人なのかもしれません。

60代からのお金の安心は、通帳の数字だけでできているわけではありません。

年金、退職金、NISA、配当、医療費、税金。どれも大事です。

けれど、その全部を受け止める器は、自分の体と毎日の暮らしです。

働けることは幸せです。年金が減りにくくなることもありがたいことです。

ただし、働きすぎて健康貯金を取り崩してしまえば、それは静かな赤字です。

60代からの資産形成でいちばん見落とされやすい資産は、もしかすると「今日、気持ちよく眠れる体」なのかもしれません。

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