車旅をして初めて気づいた「目的地よりサービスエリアが思い出になる旅」(前編)

七月に入り、今年も本格的な夏がやってきました。ちょうど七夕を迎えるこの時期は、日中は強い日差しが照りつける一方で、朝夕には少しだけ涼しい風が吹き抜けることがあります。そんな季節になると、不思議と「どこかへ行きたい」という気持ちが湧いてきます。
私は北九州を出発し、広島、岡山、高松、大阪と車で巡り、最後は大阪南港からフェリーに乗って北九州へ帰る旅に出ました。
旅好きの方なら、「厳島神社へ行ったのですね」「倉敷美観地区が良かったでしょう」「栗林公園はどうでしたか」と思われるかもしれません。
しかし、今回の旅で私が一番心を動かされたのは、有名な観光地ではありませんでした。
それは、高速道路のサービスエリアでした。
若い頃なら考えもしなかったことです。しかし60代になってみると、旅の楽しみ方そのものが少しずつ変わっていることに気付かされたのです。
ロリポップレンタルサーバー10日間無料お試しはこちら広島へ向かう道で感じた「急がない贅沢」
北九州を早朝に出発しました。
昔なら「少しでも早く目的地へ着きたい」とアクセルを踏んでいましたが、今は違います。
眠くなれば休む。
景色がきれいなら車を停める。
美味しそうなパンがあれば買ってみる。
そんな何気ない寄り道が旅を豊かにしてくれます。
中国自動車道や山陽自動車道には、それぞれ個性あるサービスエリアがあります。
地元野菜を販売していたり、地元のお菓子が並んでいたり、地域限定のお弁当が置かれていたりします。
以前なら「こんなもの買わない」と通り過ぎていた場所が、今では立派な観光地になっています。
60代になると時間の使い方が変わります。
目的地だけではなく、その途中にある時間までも楽しめるようになるのです。
これは年齢を重ねたからこそ得られた贅沢なのかもしれません。
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岡山、高松へ渡る瀬戸大橋で思った「人生も橋を渡ってきた」
広島を後にして岡山へ向かいました。
そして瀬戸大橋を渡り、高松へ。
何度見ても瀬戸内海は穏やかです。
大小さまざまな島が静かに浮かび、その間を船がゆっくりと進んでいきます。
橋の上からその景色を眺めていると、自分の人生も同じようなものだったのではないかと思いました。
若い頃は仕事に追われました。
家庭を守ることにも必死でした。
思うようにいかないことも数え切れないほどありました。
それでも振り返れば、一つひとつ橋を渡るように人生を歩いてきたのです。
瀬戸大橋には終点があります。
しかし人生には終点よりも、「今どこを渡っているのか」が大切なのではないでしょうか。
そんなことを考えながら、高松でいただいた讃岐うどんは、驚くほど美味しく感じました。
味だけではありません。
旅をしている自分自身に、少しだけ満足していたからだと思います。
大阪へ向かう途中で見えた「旅は観光より会話でできている」
高松を出発して再び瀬戸大橋を渡り、大阪へ向かいました。
途中、何度か休憩を取りました。
そこで店員さんと交わした「今日は暑いですね」という一言。
隣のテーブルで旅行中のご夫婦と話した「どちらから来られたんですか」という何気ない会話。
こうした短い時間が、不思議と記憶に残ります。
若い頃は人と話すより、写真を撮ることに夢中でした。
しかし今は違います。
スマートフォンの写真は何千枚あっても見返すことは少ないものです。
それよりも、誰かと笑った数分間のほうが、何年経っても忘れません。
旅とは移動ではなく、人との出会いなのだと改めて感じました。
大阪市内へ近づくにつれ、高層ビルが増え、交通量も一気に多くなりました。
都会の景色を見ると、「やっぱり田舎暮らしも悪くないな」と思えるのも60代ならではです。
若い頃なら都会への憧れしかありませんでした。
しかし今では、静かな朝、小鳥の声、近所を散歩する時間、スーパーで知り合いと立ち話をする日常が何よりの幸せになっています。
大阪ではホテルへ車を停め、翌日のフェリー乗船までゆっくり街を歩きました。
夜景はもちろん美しかったのですが、それ以上に印象的だったのは、大阪南港で見上げた夕焼けでした。
これから乗るフェリーがゆっくりと港へ入ってくる姿を見ながら、「旅もいよいよ終わりか」と少し寂しい気持ちになりました。
ところが、このあと私は、この旅で一番驚く出来事に出会うことになります。
その出来事は、広島でも岡山でも高松でも大阪でもありませんでした。
旅の最後、フェリーの船内で起きた、たった一人の男性との偶然の出会いが、この旅の意味を大きく変えることになるのです。
車旅をして初めて気づいた「目的地よりサービスエリアが思い出になる旅」(後編)
フェリーで出会った一人の男性が、この旅の主役になった
翌日、大阪南港から北九州・新門司港へ向かうフェリーに乗り込みました。
車で旅をすると、どうしても運転に神経を使います。高速道路では周囲に気を配り、目的地に着けば駐車場を探し、翌日の行程も考えなければなりません。
ところがフェリーに乗った瞬間、その緊張感がすべて解けました。
船がゆっくり岸壁を離れると、大阪の街並みが少しずつ遠ざかっていきます。
デッキに立って海風を浴びていると、「急ぐ必要なんてないじゃないか」という気持ちになりました。
私は自動販売機で缶コーヒーを買い、窓際の席に座りました。
すると向かいに、一人の男性が座りました。
年齢は私より少し上でしょうか。七十歳前後に見えました。
「どちらまでですか。」
その一言から会話が始まりました。
男性は毎年、このフェリーを利用して九州を旅しているそうです。
「ホテル代も一泊浮くし、何より船に乗る時間が好きなんですよ。」
そう笑いながら話してくれました。
旅行の話になり、私は今回のルートを説明しました。
広島。
岡山。
高松。
大阪。
男性は静かにうなずきながら聞いていました。
そして最後に、ぽつりと言いました。
「全部いい場所ですね。でも、一番思い出に残るのは、人ですよ。」
私は少し驚きました。
まるで私が旅の途中で感じていたことを、そのまま言葉にされたようだったからです。
男性は続けました。
「景色は写真で残ります。でも、人との会話は心に残るんです。」
その言葉は、不思議なくらい胸に響きました。
私は旅の途中で、サービスエリアの店員さんと話し、食堂のおばちゃんと笑い合い、道を尋ねた地元の方に親切にしていただきました。
どれも数分の出来事です。
それなのに、観光地の写真より鮮明に思い出せるのです。
フェリーの揺れに身を任せながら、「旅とは目的地ではなく、人との縁なのだ」と改めて感じました。
家へ帰るまでが旅。そして帰ってから気付いた、本当の土産
翌朝、フェリーは静かに新門司港へ入港しました。
車に戻り、エンジンをかけます。
九州の空気を吸うと、「帰ってきたなあ」という安心感があります。
北九州から自宅へ向かう道も、旅の続きです。
途中でコンビニに寄り、冷たいお茶を買いました。
普段なら何気なく立ち寄るだけのコンビニですが、この日は少し違いました。
レジで店員さんが「お帰りなさいませ」と言ったわけではありません。
それでも、聞き慣れた九州の言葉を耳にした瞬間、どこかほっとしたのです。
家に帰ると、留守番をしていた植木に水をやり、郵便受けを開け、冷蔵庫の中を確認する。
そんな何気ない日常が、旅を終えた私にはとても新鮮に感じられました。
旅行とは、非日常を楽しむものだと思っていました。
しかし本当は違いました。
日常のありがたさを思い出すために旅へ出るのかもしれません。
60代になると、豪華なホテルよりも、自宅の布団の寝心地が一番だと思えるようになります。
高級料理よりも、いつもの味噌汁が落ち着きます。
それは歳を取ったからではなく、「帰る場所」がある幸せを知ったからなのでしょう。
そして今回の旅で買ったお土産を並べてみると、お菓子や地酒、地元の名産品は確かにありました。
しかし、一番価値があったのは、お金では買えない思い出でした。
サービスエリアで食べた焼きたてのパン。
瀬戸内海に沈む夕日。
フェリーの甲板で聞いた波の音。
そして、一人の旅人から聞いた何気ない一言。
それらは時間が経つほど価値が増していく、本当のお土産だったのです。
旅で一番心に残った場所は、どこでもなかった
旅行前、私は今回の旅で「一番良かった場所はどこだろう」と考えていました。
広島かもしれない。
倉敷かもしれない。
高松かもしれない。
大阪かもしれない。
しかし家へ帰って写真を整理していると、不思議なことに「一番」を決められませんでした。
どの写真にも、その土地の景色が写っています。
でも、本当に思い出したのは写真ではありません。
サービスエリアで笑顔を見せてくれた店員さん。
道を教えてくれたご夫婦。
フェリーで隣に座った男性。
旅先で交わした、ほんの短い会話でした。
私はようやく気付きました。
今回の旅で一番心に残った場所は、「広島」でも「岡山」でも「高松」でも「大阪」でもなかったのです。
人と人がほんの少しだけ心を通わせた、その瞬間こそが旅の目的地だったのです。
若い頃は、遠くへ行けば行くほど良い旅だと思っていました。
しかし60代になった今は違います。
誰と笑ったか。
どんな言葉を交わしたか。
どんな景色を眺めながら缶コーヒーを飲んだか。
そんな小さな出来事が人生を豊かにしてくれます。
今回の旅で私は、もう一つ大きな発見をしました。
「旅を終えて帰ってきた自分が、旅に出る前の自分とは少し違っていた」ということです。
年齢を重ねると、新しいことは少なくなると思われがちです。
しかし実際には、旅に出れば何歳になっても新しい発見があります。
だから私は、また車に乗ります。
目的地を決めなくてもいい。
美味しいものを探さなくてもいい。
絶景を見なくてもいい。
また誰かと「こんにちは」と言える旅に出たい。
そんな旅が、これからの人生には一番似合う気がしています。



