株で年間100万円を得るための「必要資金」は、利益の受け取り方で2倍以上変わります

七月十七日、暦の上では「小暑」の終盤です。七十二候では、若い鷹が飛び方を覚える頃を「鷹乃学習(たかすなわちわざをならう)」と呼びます。朝から蝉の声が勢いを増し、庭の鉢植えに水をやるだけで額に汗が浮かびます。冷たい麦茶を一杯飲み、新聞を開く前に証券口座をのぞくのが、最近の私の日課になっています。
そんな夏の朝、ふと考えました。株で年間100万円の利益を得るには、いくら必要なのでしょうか。月に直せば約8万3,000円です。年金にこの金額が上乗せされれば、電気代の値上がりを吸収し、たまの旅行や孫への祝いにも余裕が出ます。数字だけを見ると、いかにも魅力的です。
ところが、この問いには一つの正解がありません。「値上がり益で100万円」なのか、「配当金で毎年100万円」なのか、さらに税引前なのか手取りなのかで、必要資金がまるで違うからです。
60代は、若い頃のように失敗しても給料で埋め合わせる時間が長くありません。まずは100万円という華やかな目標を、静かに分解してみる必要があります。
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仮に500万円で買った株が一年で20%上がれば、値上がり益は100万円です。1,000万円なら10%、2,000万円なら5%上がれば100万円になります。計算だけなら単純です。
ただし、これは「毎年100万円を得るための必要資金」ではなく、「その年に100万円の含み益が出るかもしれない資金」です。
株価が20%上がる年もあれば、20%下がる年もあります。含み益は売るまで利益ではありませんし、売った翌年に同じ銘柄が同じように上がる保証もありません。
課税口座で売却益を得た場合は、原則として所得税・復興特別所得税と住民税を合わせて20.315%がかかります。手取り100万円が欲しいなら、税引前の利益は約125万5,000円必要です。
1,000万円の元手なら約12.55%、2,000万円なら約6.28%の利益を毎年確定し続ける計算です。数字に直すと、かなり高いハードルだと分かります。
さらに60代には「順番の危険」があります。退職直後に相場が下がり、生活費のために安値で売ると、その後の回復に参加する元本まで小さくなります。
たとえば2,000万円が25%下落すると1,500万円です。そこから元の2,000万円へ戻るには25%ではなく、約33.3%の上昇が必要です。下落率と回復率は同じではありません。
私なら、値上がり益100万円を家計の固定収入としては数えません。取れた年の「臨時収入」と考えます。
利益が出ても、全部を使わず半分は現金に戻し、翌年の税金や医療費、家電の買い替えに備えます。冷蔵庫や給湯器は、株価が高い時期を選んで壊れてはくれないからです。
短期売買で毎年100万円を狙う方法もありますが、これは必要資金より技量と損失管理の問題になります。
500万円を何度も回転させれば売買金額は膨らみますが、利益が約束されるわけではありません。むしろ「今年も100万円」というノルマが、損切りの遅れや信用取引への誘惑を生みます。
All Aboutには、投機的な取引にのめり込み、約1年半で総額500万円を失った体験談も掲載されています。定年後の投資で最も怖いのは、銘柄選びの失敗以上に、取り返そうとする気持ちなのかもしれません。
株歴50年超のプロが今、買うべきと考える銘柄配当で手取り100万円なら、現実的な目安は2,500万~4,200万円です
毎年の見通しを立てやすいのは、値上がり益より配当金です。必要資金は「年間100万円÷配当利回り」で求められます。
NISAなどで配当が非課税になる前提なら、利回り2%で5,000万円、3%で約3,333万円、4%で2,500万円、5%で2,000万円です。
しかし、課税口座で「手取り100万円」を得る場合は話が変わります。20.315%を差し引いた実質利回りで計算すると、おおよその必要資金は次のとおりです。
| 表面配当利回り | NISA等で非課税の場合 | 課税口座で手取り100万円の場合 |
|---|---|---|
| 2% | 5,000万円 | 約6,275万円 |
| 3% | 約3,333万円 | 約4,183万円 |
| 4% | 2,500万円 | 約3,137万円 |
| 5% | 2,000万円 | 約2,510万円 |
この表だけを見ると、5%の高配当株を買えば少ない資金で済むと思いがちです。
けれども高い利回りは、株価が下がって見かけ上高くなっている場合があります。会社の業績が悪化すれば、減配や無配もあります。
PRESIDENT Onlineも、無理に高配当を維持している銘柄には減配リスクがあると注意を促しています。4%を中心にし、業種や銘柄を分散するくらいが、60代には無理の少ない考え方です。
ここでNISAを使えば万事解決かというと、そう簡単でもありません。
現在のNISAは、年間投資枠が合計360万円、非課税保有限度額は1人1,800万円です。そのうち、上場株式やETFなどを買える成長投資枠の非課税保有限度額は1,200万円です。
個別の高配当株だけで2,500万円を一度に非課税にすることはできません。
たとえば成長投資枠で取得額1,200万円分の株を持ち、配当利回り4%なら、年間配当は48万円です。
残る52万円を課税口座の配当で補うには、同じ表面利回り4%なら約1,632万円が必要です。合計は約2,832万円になります。
これが「NISAも使いながら、個別株配当で手取り100万円」を考えるときの、一つの現実的な目安です。
夫婦ならそれぞれにNISA枠がありますが、配偶者のお金まで自分の資金のように扱わず、目的と名義を話し合うことが大切です。
もう一つ、意外に知られていない落とし穴があります。
NISA口座で買った国内上場株式の配当を非課税にするには、原則として証券口座で受け取る「株式数比例配分方式」を選ぶ必要があります。
郵便局で配当金領収証を換金したり、指定した銀行口座で受け取ったりする方式では、NISAで買った株でも20.315%が源泉徴収されます。
昔から紙の配当金領収証になじみがある私たちの世代ほど、一度確認しておきたい点です。
そして、必要資金の全額を退職金から株へ移すのは勧められません。
少なくとも数年分の生活費、近い将来の住宅修繕費、車の買い替え、医療・介護の予備費は現金や値動きの小さい資産で分けておきます。
2,500万円を持っていても、それが老後資金の全額なら、2,500万円を株に投じられる人ではありません。「持っている金額」と「減っても暮らしが揺れない投資可能額」は別物です。
配当利回り4%も約束ではありません。税金、売買手数料、外国株なら現地課税や為替、ETFなら経費率も考えます。
年間100万円を365日で割れば一日約2,740円です。毎朝の値動きに一喜一憂して眠れなくなるなら、その2,740円のために健康を削ることになります。
老後のお金は、増え方だけでなく、安心して眠れるかどうかまで含めて設計したいものです。
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2,500万円を用意した友人が、最後に買った「一番利回りの高い株」
数年前、同い年の友人から電話がありました。仮に佐藤さんとしておきます。
会社を辞めたばかりの彼は、退職金と預金を合わせて2,700万円ほど持っていました。そして「配当4%なら、ほぼ年100万円だ。年金に足せばもう働かなくていい」と弾んだ声で話しました。
私はうらやましい半面、少し心配になりました。彼は証券会社でもらった高配当銘柄の一覧を見て、上から順に買おうとしていたからです。
しかも手元に残す現金は200万円だけでした。奥さんは膝の具合が悪く、築三十年の家は外壁の塗り替え時期を迎えていました。
八月の暑い日に彼の家を訪ねると、食卓に電卓、通帳、配当予想の紙が並んでいました。彼は何度計算しても「2,500万円×4%=100万円」と書きました。
その横で奥さんが、麦茶の氷をからりと鳴らしながら言いました。
「その100万円、雨漏りしたら何年分なくなるの」
部屋が静かになりました。
冗談のような一言でしたが、屋根と外壁の見積もりは180万円でした。さらに奥さんの治療費、車検、固定資産税を足すと、200万円の現金は心細い金額でした。
彼は結局、投資を急がず、まず700万円を生活防衛資金と修繕費に分けました。残る2,000万円のうち、さらに500万円は定期預金と個人向け国債に置き、株への投資は1,500万円にしました。
利回り4%なら配当は年60万円です。目標の100万円には40万円足りません。
彼はがっかりするかと思いましたが、翌月から地域の施設で週に一、二度、用務の仕事を始めました。電球を替え、植木に水をやり、利用者の忘れ物を預かる仕事です。年間の手取りはおよそ40万円でした。
一年後、彼は笑って言いました。
「配当60万円と仕事40万円で、合わせて100万円になったよ」
ここまでは、よくあるいい話に聞こえるかもしれません。
しかし、驚いたのはその次です。彼が最初に私へ見せたのは、配当の明細ではなく健康診断の結果でした。
体重が4キロ減り、血圧が下がり、再雇用を辞めてから減っていた会話も増えたそうです。施設で知り合った人たちと、月に一度、低い山を歩くようにもなりました。
そして彼は、こう続けました。
「一番利回りが高かったのは、株じゃなくて、俺の空いていた二日間だった」
私は完全に一本取られました。
彼は2,500万円を株に入れて年100万円を得る計画を捨て、1,500万円の株と自分の時間で同じ100万円を作っていたのです。
しかも1,000万円を危険にさらさず、健康と居場所まで手に入れました。
株で年間100万円という目標は、決して悪くありません。ただし、その100万円を株だけに背負わせる必要はないのです。
配当60万円、短い仕事40万円でもよいですし、配当50万円、固定費の見直し30万円、不用品の整理や小さな収入20万円でも、家計への効果は同じ100万円です。
必要資金を無理に小さくするため高利回りへ走るより、目標を分けたほうが安全です。
結論を申し上げれば、配当で手取り年100万円を目指す必要資金は、無理の少ない利回り3~4%なら、おおむね3,100万~4,200万円です。
NISAを上手に使えば負担は下がりますが、個別株中心なら枠の上限と配当の受取方式に注意が必要です。値上がり益なら少額でも達成する年はありますが、毎年の生活費として当てにするのは危険です。
鷹の若鳥も、最初から高く遠くへ飛ぶわけではありません。枝から枝へ移り、羽の使い方を覚えます。
私たち60代の投資も同じです。年間100万円という空だけを見上げず、まず10万円、次に30万円と、暮らしを壊さない高さから飛び始めればよいのです。
株に働いてもらいながら、自分の時間にも少し働いてもらう。その二本の翼が、案外いちばん遠くまで私たちを運んでくれるのではないでしょうか。
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参考にしたサイト
・金融庁「NISAを知る」
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/know/
・国税庁「株式・配当・利子と税」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/04_5.htm
・国税庁「株式等を譲渡したときの課税」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
・日本証券業協会「NISA口座における上場株式の配当金等受取方式に関する注意事項」
https://www.jsda.or.jp/shijyo/seido/tax/nisahaitoukin.html
・All About「配当金月2万円のリアル」
https://allabout.co.jp/gm/gc/519540/
・All About「1日で年収分のお金を溶かす恐怖」
https://allabout.co.jp/gm/gc/502754/
・All About「教えて!桐谷さん『定年前後はどんな投資が適している?』」
https://allabout.co.jp/gm/gc/504216/
・PRESIDENT Online「高配当銘柄を選ぶ際の注意」
https://president.jp/articles/-/59513
