わたしが墓じまいを決意した理由と、スムーズに進める方法
60代のわたしが「墓じまい」を決めた日

ある日、墓参りの帰り道で足をくじいた。年々、お墓までの道のりがしんどくなっていることは感じていたが、今回ばかりは「もう無理かもしれない」と実感した。
家に戻って腰を落ち着けると、ふと考えた。「自分が元気なうちに、墓じまいをしておいたほうがいいのではないか?」
かつては、お墓を守るのが当たり前だった。しかし、子どもたちは遠方に住み、親族も高齢化している。これから先、誰がこの墓を維持していくのか……。それを考えたとき、墓じまいを決意した。
同年代の皆さんの中にも、同じ悩みを抱えている方は多いのではないか。今回は、わたしが実際に経験した「墓じまい」のプロセスを詳しく紹介する。
墓じまいとは?最近のトレンドも紹介
そもそも「墓じまい」とは何か。簡単に言えば、既存のお墓を撤去し、遺骨を他の供養先に移すことだ。
墓じまいは単にお墓をなくす行為ではなく、遺族の負担を減らし、故人を新たな形で供養する方法でもある。墓地の管理や維持が難しくなった現代において、墓じまいは次の世代にとっても重要な選択肢の一つだ。
近年では、都市化が進むことで、地方のお墓を維持することが困難になっている。さらに、核家族化が進み、墓を守るべき後継者がいないというケースも増えている。こうした背景から、墓じまいを選択する家庭が急増しているのだ。
また、墓じまいを行う際には、遺骨の新たな供養先を決める必要がある。最近では、納骨堂や樹木葬、さらには散骨といったさまざまな選択肢が登場しており、故人の遺志や家族の考え方に合わせて選べるようになっている。
こうした状況の変化を受けて、墓じまいを支援する業者も増えており、手続きの代行や相談サービスを提供する専門会社も存在する。墓じまいは決して後ろ向きな決断ではなく、むしろ未来志向の供養方法として、広く受け入れられつつあるのだ。
近年、墓じまいをする人は急増している。以下のデータをご覧いただきたい。
年 | 墓じまい件数 |
---|---|
2010 | 30,000 |
2012 | 40,000 |
2015 | 45,000 |
2017 | 67,000 |
2019 | 90,000 |
2021 | 125,000 |
2023 | 151,000 |
2025 | 180,000 |
このように、墓じまいの件数は年々増えており、2025年には18万件を超えると予測されている。
背景には、以下のような理由がある。
- お墓を継ぐ人がいない
- お墓の維持費が高い
- 遠方にあって管理が難しい
- 無縁仏になるのを避けたい
- 都市化が進み、お墓が遠くなった
- 新しい供養のスタイルが普及している(樹木葬・散骨など)
特に都市部に住む人ほど、この問題を深刻に感じるようだ。
墓じまいの手順と費用の目安
墓じまいの手続きは、大きく以下のステップに分けられる。
1. 親族と相談する
墓じまいは家族の問題でもある。わたしの場合、最初に兄弟や子どもたちと話し合い、「みんなが納得できる形」を模索した。
2. 新しい供養先を決める
お墓を撤去した後、遺骨をどうするかが重要だ。主な選択肢として、
- 永代供養墓(管理不要の合祀墓)
- 納骨堂(屋内施設)
- 海洋散骨
- 手元供養(遺骨を小さな壺などに保管)
- 樹木葬(自然に還る埋葬方法)
わたしは、管理の負担が少ない永代供養墓を選んだ。
3. お寺に離檀を申し出る
お寺に「墓じまいをしたい」と伝えると、離檀料を請求されることがある。離檀料は支払わなくてもよいが、お礼の気持ちは示したほうが円満に進む。
4. 行政手続きをする
墓じまいには「改葬許可証」が必要だ。市区町村役場で申請を行い、許可を得る。
5. 墓石の撤去と遺骨の移動
墓石の撤去費用は、1㎡あたり約10万~30万円が相場だ。
項目 | 費用相場 |
---|---|
墓石撤去 | 10万~30万円 |
離檀料 | 0~50万円(交渉次第) |
永代供養費 | 5万~30万円 |
納骨堂利用料 | 10万~50万円 |
樹木葬 | 15万~40万円 |
墓じまいを成功させるコツ
墓じまいをスムーズに進めるためには、次のポイントを押さえるとよい。
- お寺との関係を良好に保つ
- 見積もりは必ず複数社に依頼する
- 業者選びは口コミや実績を重視する
- 費用は明確にしておく(追加料金に注意)
- 新しい供養方法を事前に調査する
わたしも、数社に相談し、納得できる業者を選んだ。
墓じまいをして感じたこと
墓じまいを終えたあと、不思議と心が軽くなった。お墓参りの負担がなくなっただけでなく、「次の世代に負担を残さない」という安心感も得られた。
また、納骨堂に移したことで、天候を気にせず手を合わせられるようになったのもよかった。雨の日や猛暑の日でも、お墓参りをするために無理をすることなく、気持ちが落ち着いたときに訪れることができる。特に高齢になると、遠出をするのも大変なので、こうした気軽に足を運べる供養の場があることはとてもありがたいと感じている。
さらに、家族とのコミュニケーションも増えた。墓じまいを決意したことで、子どもたちや兄弟と話し合う機会が増えたのも良い経験だった。自分一人で決めるのではなく、みんなで意見を出し合いながら進めたことで、家族の考えや価値観を共有することができた。
そして、費用面でも大きなメリットがあった。これまでのお墓の維持費や管理料、遠方への移動費など、積み重なる負担を考えると、墓じまいをしたことで経済的な負担が減ったのは大きな収穫だ。こうしたことを事前に考え、しっかり準備しておくことで、心にも余裕を持つことができる。
墓じまいは大きな決断ではあるが、こうして振り返ると「やってよかった」と心から思える。これから先、お墓に関して不安を抱えることなく、安心して日々を過ごせるのは何よりも大切なことだと実感している。
墓じまいは「後悔しない決断」のひとつ

もし墓じまいを検討しているなら、「まだ元気だから」と先延ばしにせず、早めに動いたほうが後悔しない。なぜなら、体力があるうちに準備を進めることで、より納得のいく選択ができるからだ。
また、手続きを行う際に、役所での書類手続きや業者との打ち合わせなど、意外と時間と手間がかかるものだ。実際、わたし自身も思っていたよりも長い期間が必要だった。最初に検討を始めてから完了するまで、約1年ほどかかった。
加えて、お墓をどうするかは、60代、70代にとって避けて通れないテーマである。家族の意見をまとめる時間も必要だし、新たな供養の方法について調べたり、お寺や業者と交渉するのも一苦労だ。思っている以上にやるべきことが多いため、少しでも早めに準備を始めることをおすすめする。
今回の経験が、同じ悩みを持つ皆さんにとって参考になれば幸いである。