値上がりしそうな銘柄の話を、私は台所の曇った窓の前で考えていました
今朝は少し肌寒くて、湯のみから立つ湯気が、古い換気扇の音にあわせてゆっくり揺れていました。六十を過ぎてひとりで暮らしていると、朝の景色はだいたい同じです。新聞を取りに行って、電気ポットを押して、食パンを焼いて、その間に相場の気配をちらりと見る。そんな、たいしてドラマでもない動きのなかで、今日は妙に胸の奥がざわつきました。理由は、株価そのものではありませんでした。むしろ「また自分の知らないところで、お金の流れだけが先に未来へ行ってしまうのではないか」という、少しみっともない焦りです。
きっかけはほんの小さなことでした。近くのコンビニで買ったコーヒーを片手に、レジ横の経済紙の見出しを見たのです。マイクロソフトが日本のAIやデータセンターに大きくお金を入れる、その流れに国内企業も絡んでいる、という話でした。2026年から2029年にかけて100億ドル、約1兆6000億円を日本のAIインフラやサイバー防衛に投じ、ソフトバンクやさくらインターネットとも協力すると報じられています。
私はその場で、なんとも言えない気持ちになりました。嬉しいとか、期待するとか、そういう立派な感情ではなくて、「ああ、こういう流れを早めに自分の言葉で説明できる人が、結局は強いのだろうな」という、少し悔しいような気持ちです。若い人の話についていけないことより、お金の流れの背景を、ちゃんと噛み砕いて理解しないまま“なんとなく怖い”“なんとなく難しい”で済ませてしまう自分のほうが、私は少し嫌でした。
株の話というと、どうしても勇ましくなりがちです。けれど今日は、そういう景気のいい話だけにはしません。私が見ているのは、「絶対に上がる銘柄」ではなく、「いま市場の空気が集まりやすい場所はどこか」ということです。日本ではデータセンターや半導体工場の増加で、今後10年の電力需要が5.3%伸びる見通しが示され、政府は2040年までに国産半導体の売上高を5倍にする目標も掲げています。つまり、相場の主役は“派手な夢”ではなく、“電力・設備・配線・冷却・検査”のような、少し地味で、でも現実に必要なものへ広がってきています。
ここでひとつ、今日の私なりの前提を書いておきます。
- 私は「明日必ず上がる株」を断言したいわけではありません
- 今日は2026年4月10日時点で、材料が比較的はっきりしている“旬”の候補を10社に絞っています
- 値動きは地政学や金利で簡単に揺れるので、買うより先に「なぜその銘柄なのか」を自分の言葉で言えることを大事にしています
- そのうえで、読者の方が次に何を読むべきか、何を比べるべきかの足場になる記事にしたいと思っています
たぶん、こういう感覚、わかる…と思う人もいるはずです。派手な勝ち方がしたいわけではないのに、何も知らないまま置いていかれるのは、なんだか悔しいのです。
まず見ているのは、AIの熱狂そのものではなく、その裏側を支える会社です
私がいま一番気にしているのは、AIそのものを語る会社より、AIの普及で現実に忙しくなる会社たちです。データセンターが増えれば、回線が要ります。冷やす装置が要ります。電気を流す設備が要ります。半導体をつくる装置や、半導体を検査する装置も要ります。未来の話に見えて、やっていることは意外なくらい土木的で、設備的で、汗くさいのです。私はそういうところに、妙な安心を覚えます。流行語より、配線のほうが長持ちする気がするからです。
以下は、2026年4月10日時点で私が“旬”だと見ている10銘柄です。背景にあるのは、マイクロソフトの日本投資、AI向け半導体投資、データセンターの電力需要増、原子力・インフラ回帰、そして金利正常化の流れです。
| 銘柄 | 私が見ている理由 | 注目テーマ |
|---|---|---|
| さくらインターネット | マイクロソフト投資と政府クラウド認定の追い風 | 国内AI・政府クラウド |
| ソフトバンク | マイクロソフト協業の受け皿になりやすい | AI基盤・通信 |
| アドバンテスト | AI用半導体の検査需要が強い | 半導体テスター |
| 東京エレクトロン | AI投資で装置需要が続く | 半導体製造装置 |
| ディスコ | 生成AI需要で出荷額が過去最高 | 半導体加工装置 |
| 古河電工 | データセンター向け冷却製品に大型投資 | 冷却・熱対策 |
| フジクラ | AIデータセンター向け光ファイバー期待 | 光配線 |
| 日立製作所 | 電力網・変圧器・送配電の需要増 | 電力インフラ |
| 三菱重工 | 原子力再稼働と大型インフラの恩恵 | 原子力・重工 |
| 三菱UFJFG | 金利正常化と融資需要の追い風 | 銀行・金利 |
この顔ぶれを見ると、夢のある新興株というより、「世の中が本気で設備投資を始めるなら、結局ここが忙しくなる」という会社が多いです。私は最近、この“忙しくなる会社”という見方をするようになりました。若いころは、社名がかっこいいとか、新事業が派手だとか、そういうことにわりと簡単に心を持っていかれました。でも六十代になってからは、売上や受注の増え方よりも、「この会社は何の汗をかいて稼ぐのか」が気になるのです。
今日の小さな出来事を、もうひとつ書いておきます。昼前、買い物から戻ってエコバッグの中を片づけていたら、メモ帳の端に自分で書いた銘柄コードが見つかりました。さくら、6857、8035、5801……。我ながら、几帳面なのか未練深いのかわかりません。けれど、そのメモを見たとき、少し笑ってしまいました。私は投資がうまい人間ではありません。むしろ、何度も出遅れて、上がったあとに羨ましがる側です。なのに、懲りずにまた調べている。その姿が、ちょっと情けなくて、でも少し愛おしくもありました。
その瞬間に浮かんだ本音は、「老後のため、なんて立派な言い方をしなくても、自分の生活が時代から切り離されていないと感じたいだけなのかもしれない」ということでした。これ、たぶん私は今まであまり書いてこなかった感情です。儲けたい、損したくない、ではなくて、“社会の変化の外側に立ちたくない”という気持ちです。投資をしていると、案外そういう寂しさが混ざるのだと思います。
半導体とデータセンターは、やはりまだ中心にあります
数字の後ろ盾が比較的わかりやすいのは、このあたりです。アドバンテストは2026年1月に通期営業利益見通しを21.4%引き上げ、AI向け半導体テスト需要の強さを示しました。東京エレクトロンも2026年2月に通期純利益見通しを12.7%引き上げ、自社株買いも打ち出しています。ディスコは2026年1〜3月期の出荷額が過去最高になったと発表しており、生成AI向け需要の強さが見えます。古河電工はデータセンター向け放熱・冷却製品の増産へ約550億円を投じ、フジクラはAIデータセンター向け光ファイバー需要の恩恵を受ける銘柄として注目されています。(Reuters)
ここで、私なりに見方をもう一段だけ整理しておきます。
| くくり | 見るポイント | 私の受け止め方 |
|---|---|---|
| 半導体の“頭脳側” | AI向け高性能チップの需要 | 波は大きいが主役感が強い |
| 半導体の“道具側” | 製造・検査・加工装置の受注 | 実需が見えやすい |
| データセンターの“土台側” | 回線、冷却、変圧器、送配電 | 地味だが息が長そう |
| 金利と内需の“土台側” | 銀行、融資、設備投資資金 | じわじわ効く可能性 |
私はこの表を作りながら、少し反省しました。いままでの私は、ニュースで名前が大きく出た会社ばかり見て、周辺の会社を見落としがちでした。けれど実際は、大きな波が来るときほど、いちばん派手な船だけでなく、その港や燃料や荷役を担う会社がじわりと効いてきます。相場では、主役の横顔より、裏方の手つきのほうが大事なことがあるのです。
読者の方に向けて、ここでひとつ問いかけてみたいです。もし10銘柄すべてを追うのがしんどいなら、「自分が理解しやすい役割」から見るのはどうでしょうか。たとえば、通信会社ならわかる、銀行ならわかる、重工なら馴染みがある、という入口です。投資の世界は、知識の量より、理解できる範囲を自分で決めることのほうが大事だと、私は最近ようやく思うようになりました。知らないまま無理に手を広げると、相場より先に心が疲れてしまいます。
それにしても、AI相場という言葉は便利です。便利すぎて、少し怖いくらいです。何でもAIと言えてしまうからです。そんなとき私が気をつけているのは、「その会社はAIがなくても、設備投資の波で仕事が増えるか」という見方です。古河電工の冷却、フジクラの光ファイバー、日立の電力網のように、AIブームが多少冷えても残る需要があるなら、私は少し安心します。ブームの真ん中より、ブームの後ろに残るものを見る。そのほうが、六十代の私には性に合っています。
原子力、電力、銀行――地味に見えるところほど、いまの相場の芯かもしれません
株の話をしているのに、最後に銀行や重工の話へ戻ってくるのは、少し年寄りくさいかもしれません。ただ、私は最近、ここを軽く見ないほうがいいと思っています。日本ではデータセンターや半導体工場の増加で電力需要が伸びる見通しが示され、日立は送配電や変圧器の需要増が追い風になりやすい立場です。三菱重工は原発再稼働の流れを受けて原子力部門の売上が過去最高になる見通しを示しました。三菱UFJフィナンシャル・グループは金利正常化と貸出需要を背景に、2026年3月期に過去最高益ペースで進捗していると報じられています。
さらに、春闘では5%を超える賃上げが3年連続になり、日本の金融環境はなお緩和的だと日銀は説明しています。一方で、足元では中東情勢の影響で消費者心理が急に悪くなり、相場全体の振れも大きい。つまり、設備投資や金利正常化という中期の追い風はあるのに、短期では地政学リスクで簡単に揺さぶられる、なんとも落ち着かない相場です。
こういうとき、私が自分に言い聞かせていることがあります。
- 強いテーマと、強いタイミングは別物です
- 材料が正しくても、買う日が雑だと平気で負けます
- 一度に全部わかろうとしないほうが、結果として長く続きます
- “上がるかどうか”の前に、“自分が持っていて眠れるか”を確認したほうがいいです
この最後の感覚は、若いころにはよくわかりませんでした。眠れないほど気になる株を持つのは、刺激があって面白いとも思っていました。でも今は違います。夕方のスーパーで値引きシールを見ながら、帰ってから相場のことを考えすぎない程度の持ち方のほうが、生活は傷みにくいと感じます。株は生活を支える手段であって、生活そのものを侵食してしまったら、たぶん順番が逆です。
そして今日、いちばん小さくて、でも自分では妙に大きかった気づきは、「私は“当てたい”より“納得していたい”に少しずつ変わってきたのだな」ということでした。昔は、急騰銘柄に乗れた人の話を聞くたび、取り残されたようで落ち着きませんでした。でも今は、たとえ見送っても、なぜ見送ったかを自分で説明できれば、それはそれで負けではない気がしています。この感覚は、歳をとったから丸くなったというより、ようやく身の丈に合った見方ができるようになった、というほうが近いかもしれません。
最後に、今日の10銘柄をもう一度だけ、乱暴にまとめます。AIの掛け声の前に、設備を見る。設備の前に、電力を見る。電力の前に、お金の流れを見る。そうして残った会社たちが、さくらインターネット、ソフトバンク、アドバンテスト、東京エレクトロン、ディスコ、古河電工、フジクラ、日立、三菱重工、三菱UFJFGでした。もちろん、これが唯一の正解ではありません。けれど、いまの日本株を“旬”という言葉で切り取るなら、私はこの並びにかなり時代の匂いが出ていると思っています。
夜になって、洗い終えたマグカップを伏せながら、私は朝より少しだけ気持ちが静かになっていました。儲かるかどうかは、正直まだわかりません。でも、何に世の中のお金が向かっているのかを、自分なりの言葉でたどれた一日は、思ったより悪くありませんでした。誰かの正解をなぞるのではなく、自分の生活の手触りの中で銘柄を選ぶ。そういう投資の仕方も、案外わるくないのかもしれません。
さて、あなたがいま気になっているのは、いちばん派手に見える銘柄でしょうか。それとも、地味だけれど最後まで残りそうな会社でしょうか。
