シニア世代の家事意識に見る、男の生き方再考
1. 昼食後のひとことが気づきをくれた

ある日の昼下がり、春の日差しがリビングに差し込む静かな午後。定年後のゆったりとした時間に、私は一人で食事を終え、湯気の残る茶碗を手に取りました。そのとき、ふと「さて、この茶碗は誰が洗うんだろう」とつぶやいた自分の声に、自分でも驚きました。
その瞬間、自分のなかに染みついていた“家事は妻の役割”という無意識の思い込みに気づかされたのです。昭和の時代に育ち、男は仕事、女は家庭という価値観に疑問を持たないまま、ここまで来たのだと、少しだけ恥ずかしい気持ちになりました。そして、今こそその意識を見直すときだと感じたのです。
2. 変わる70代女性の家事意識
花王生活者研究部の調査によれば、「家事はきっちりやるべき」と考える70代の既婚女性の割合は、2010年には73%だったのが、2018年には54%にまで減少しています。
年度 | きっちり家事をやるべきと考える割合 |
---|---|
2010 | 73% |
2018 | 54% |
これは、かつては当然とされていた“完璧な家事”の概念が、今では“効率”や“自分の時間”を大切にする方向へと変わってきていることの証拠です。
私の妻も「最近の掃除機って賢いのよ」と言って、ロボット掃除機を導入しました。床掃除の手間が減ったことで、趣味のパッチワークや読書に費やせる時間が増えたと嬉しそうに話しています。このように、家電の力を借りて“手抜き”ではなく“工夫”として家事を考える風潮は、今後ますます広がっていくでしょう。
3. 男性の家事意識はまだまだ昭和的?
一方で、70代の既婚男性の7割以上が「家事はきっちりやるべき」と考えているというデータもあります。この傾向には、これまで家庭内で家事に深く関与してこなかったという背景があるように思います。
私自身もそのひとり。退職後に家にいる時間が増え、「何かしないと」と思ったとき、最初に始めたのが食器洗いでした。最初は慣れない動作に戸惑いもありましたが、次第に水の音や食器の感触が心地よくなり、作業を終えたあとの達成感が“家の中での自分の役割”としての手応えを感じさせてくれるようになりました。
家事を通して、自分が家庭の一員として何かを支えているという実感が得られる。それは思いのほか心に響くもので、生活に張り合いをもたらすものでした。
4. 家電の進化が家事を変えた
ここ数年で、家電の進化は目を見張るものがあります。私が驚いたのは、最新型の洗濯乾燥機。衣類の量と汚れ具合を自動で検知し、最適なコースで洗濯してくれる機能には感心しました。
我が家では最近、食洗機を導入しました。最初は「電気代がかさむのでは」と懸念しましたが、実際には節水にもなり、手洗いよりも食器がピカピカに仕上がることに妻も満足しています。その分、夫婦で夕食後にゆっくりお茶を飲む時間が取れるようになり、心のゆとりが増えたことが何よりの収穫です。

5. 家事の意識差はなぜ生まれるのか

男女間の家事に対する意識差は、時代背景や社会的な役割分担の名残が大きく影響しています。
- 男性:家庭の外で価値を生む(仕事=存在意義)
- 女性:家庭の中で価値を生む(家事=責任)
このような構造が長年にわたって繰り返されたことで、家事への関与に大きなギャップが生まれてしまったのだと思います。しかし、夫婦で協力し合うことが生活の質を高め、精神的な充足感を得られるという実感を持てば、意識は少しずつ変わっていくのではないでしょうか。
6. 60代以下では変化が加速
60代以下の世代では、共働き世帯が増えたこともあり、家事の分担が当たり前になってきています。さらに、便利で高性能な家電や、手入れが簡単な建材などの登場によって、日々の家事は“苦労”から“効率”と“快適さ”を追求するスタイルへと移行しています。
私の息子夫婦も、冷蔵庫の中身やゴミ出しの日をアプリで共有しており、日常生活の効率化に余念がありません。「家事を分担するのは当然」という姿勢は、家庭の在り方そのものを見直すヒントにもなります。
7. シニア男性ができる“ちょい家事”から始めよう
家事は何も最初から完璧を目指さなくていいのです。自分ができることから、少しずつ始めてみるのがコツです。
私はまずゴミ出しから始め、風呂掃除、洗濯物の取り込みと、徐々に担当する範囲を広げていきました。最初は「やらされている感」があったのですが、ある日、風呂の水垢が取れてピカピカになったのを見た妻の笑顔に、「あぁ、自分にもこんな風に役立てるんだ」と嬉しくなったものです。
そして何より、妻の「助かったわ、ありがとう」というひと言が、何よりも心にしみる。家事は自己表現でもあり、家族との絆を深める手段でもあると気づいたのです。
8. 最後に:家事は“夫婦の共同作業”
定年後の人生をいかに充実させるか。旅行や趣味も大切ですが、私は日常生活のなかにこそ、静かな幸せがあると感じています。
たとえば、夕食の準備を一緒にしながら、「今日のニュース、見た?」と話す時間。洗い物を分担しながら、次の休日の予定を立てる時間。そんな何気ないやり取りの中に、夫婦の絆や安心感が育まれていくのではないでしょうか。
家事は決して“面倒な作業”ではありません。“ふたりの暮らしをつくる営み”です。これからのシニアライフに、少しだけ家事を取り入れてみる。それが、これからの自分らしい時間を見つける第一歩になるかもしれません。

