「8050問題」から「9060問題」へ:見えにくい家族の苦悩と支援のかたち
■ 私たちの隣にある“静かなSOS”
・高齢化と引きこもり問題が重なって深刻化
・家族間だけでは解決が難しい構造的な問題
・「8050問題」から「9060問題」へと移行
・地域社会の支援と理解が急務
「8050問題」という言葉が広まったとき、正直、どこか他人事のように感じていました。ところが、最近になってそれが「9060問題」にまで進行していると知り、自分自身もいつ当事者になるかわからないと実感するようになったのです。この記事では、この見えにくい課題をひとつずつ掘り下げ、私たちが何をすべきか、どんな準備ができるのかを考えていきます。
■ 「8050問題」とは何か?

・80代の親が50代の引きこもりの子を支える
・子の自立が難しく、親が高齢化して支援継続が困難に
・経済的・精神的な疲弊が蓄積
・社会との断絶が深刻化
例えば、私の知人にも、60代で未だに親と同居し、外に出られない兄弟を抱えている家庭があります。親御さんが「まだ元気だから大丈夫」と言っていたのも今は昔。病気がちになり、介護と生活の両方を抱える日々に。まさに家庭内で“二重の孤立”が起きているのです。
■ 新たな段階「9060問題」とは
・90代の親と60代の子という関係構造
・親も子も高齢で、支援する余力が乏しい
・介護と引きこもりが同時進行
・行政・福祉の支援が追いつかない
私の叔父がまさにこのケース。叔父の家では90代の祖母と60代の伯父が二人暮らし。祖母は寝たきり、伯父は仕事に就けず日々が過ぎるばかり。家の中は静かすぎて、まるで時間が止まっているようです。どちらも支援を拒みがちで、周囲がどう関われるかが課題です。
■ なぜこうした問題が放置されやすいのか?
・家族内の問題として扱われやすい
・支援を求める声が外に出にくい
・恥の意識や偏見による沈黙
・制度の「隙間」に陥りやすい
こうした問題は、当事者が「助けて」と言い出すこと自体が難しいのです。私もかつて親族の問題を外に出すことをためらった経験があります。見ないふりをした方が楽だと思ってしまう。けれど、放置すればするほど、解決は遠のいてしまいます。
■ 数字で見る現状(図表:年齢別引きこもり人口と親の年齢)
子の年齢層 | 引きこもり人口(推計) | 主な親の年齢層 |
---|---|---|
40代 | 約54万人 | 70代〜80代 |
50代 | 約33万人 | 80代〜90代 |
60代 | 約15万人 | 90代〜100歳以上 |
※出典:内閣府「引きこもりに関する実態調査(2023)」を基に筆者作成
この表を見ると、50代・60代の引きこもりも決して少数ではなく、むしろ親世代の高齢化と並行して増えている傾向にあることが分かります。
■ 支援が届きにくい背景

・生活保護や介護サービスだけではカバーしきれない
・地域包括支援センターの人手不足
・中高年の引きこもりに特化した支援が少ない
・親が支援を「拒否」するケースも
支援の場に何度か足を運んだことがありますが、制度の説明が難しく、誰が何をしてくれるのか分かりにくいのが現実です。特に年配の親は「こんなことで迷惑かけたくない」と支援を断ってしまうことも……。
■ 当事者の声に耳を傾ける大切さ
・「働きたいが怖い」「社会に出る勇気がない」
・「親に頼らざるを得ない」苦しみ
・支援者の無理解に対する不信感
・“自分だけじゃない”と感じられる機会の必要性
以前、支援団体の交流会で当事者の声を聞いたとき、「誰かに話せるだけで救われた」という言葉が印象的でした。私たちができる最初の一歩は、否定せず、ただ話を聴くこと。これだけでも、心の負担が少し軽くなるのです。
■ 家族だけに背負わせない仕組みづくり
・地域の中での“緩やかな支え合い”を強化
・民間NPOやボランティアとの連携
・行政主導ではなく住民参加型の支援
・情報発信と相談機会の拡充
自治体で始まっている「ご近所見守りネットワーク」など、ゆるやかなつながりが功を奏している事例もあります。私の地元でも、町内会が高齢者宅を定期的に訪問する取り組みをしています。大ごとでなくても、顔を見せるだけで安心感につながるのです。
■ 私たちにできる小さなアクション

・まずは自分の周りの声に敏感になる
・「大丈夫?」と気軽に声をかける勇気
・地域の活動に参加して顔見知りを増やす
・支援制度について調べてみる
私も最初は「誰かのことに首を突っ込むのは…」と躊躇していましたが、ある時、勇気を出して声をかけたご近所さんが「実は困ってて…」と話してくれたことがありました。気づくこと、声をかけること、それだけでも社会との接点は広がるのです。
■ 今後求められる政策と社会の視点
・中高年の引きこもりを可視化する施策
・長期的な就労支援プログラムの強化
・家族向けの心理サポート体制
・社会全体の意識改革
これからの日本では、“長寿”の裏にあるさまざまな課題と向き合う必要があります。働き盛りを過ぎても、支援を受けることで再スタートできる社会を目指すべきです。そのためには、一人一人が「見て見ぬふり」をやめることが求められています。
■ まとめ:家族の問題を、社会全体の問題として考える

・「9060問題」は誰にとっても他人事ではない
・支援の第一歩は“気づき”と“声かけ”
・行政・地域・個人が連携した支援体制の必要性
・できることから始める意識が未来を変える
この問題に向き合うと、どこか心が重たくなるかもしれません。けれども、家族が孤立しない社会をつくることは、今の私たち世代に託された大切な使命なのかもしれません。
あなたの周りにも、静かに悩んでいる誰かがいるかもしれません。
今日、まずは「お元気ですか?」と声をかけてみませんか?


